「時」と「とき」では意味が異なります。「とき」と「場合」は意味が同じです。
1 「時」と「とき」の使い分け
「時」は,その「時点」,その「日時」,その「日」に意味があることを強調するときに使う言葉ですが,「とき」は一般的な仮定的条件を表す場合に使われる言葉です。
⑴ 時
憲法39条は「何人も,実行の時に適法であつた行為・・・については,刑事上の責任を問はれない。・・・」と規定しています。
この「時」は,「実行の日時」が重要な意味を持ちます。別の日ではない「その日時」が重要な意味を持つのです。
民法784条は「認知は,出生の時にさかのぼってその効力を生ずる。」と規定していますが,この「時」も「その日時」に意味のある規定です。「他の日時」では意味がないのです。
⑵ とき
憲法70条は「内閣総理大臣が欠けたとき,又は衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたときは,内閣は,総辞職をしなければならない。」と規定していますが,この「とき」は,仮定的な条件をいう言葉です。「とき」を「場合」に置き換えることが可能です。
民法30条1項は「不在者の生死が七年間明らかでないときは,・・・失踪の宣告をすることができる。」と規定し,引き続いて民法31条は「・・・失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に,・・・死亡したものとみなす。」と規定しています。
30条1項の「明らかでないとき」は仮定的条件を表していますので「明らかでない場合」と同じ意味になりますが,31条の「満了した時」は,満了した日」を意味しますので,「満了した場合」という言葉に置き換えることはできません。
2 「とき」と「場合」の使い分け
「とき」も「場合」も,同じ仮定的条件を意味しますが,仮定的条件が複数重なる場合があります。このような場合は,大きい条件には「場合」を,小さい条件には「とき」を使います。
民法26条は「不在者が管理人を置いた場合において,その不在者の生死が明らかでないときは,・・・」と規定していますが,
「不在者が管理人をおく」という仮定的条件を設定し,その仮定的な条件のもとで,さらに,「不在者の生死が明らかでない」という仮定的条件を設定する場合は,前者の方が大きい条件,後者の方が小さい条件になりますので,前者の仮定的条件を表す言葉は「場合」を,後者のそれは「とき」を使うのです。