被用者に不利な就業規則の変更はどこまでなら許されるの?

1,一般論
最高裁昭和43年12月25日判決・平成12年9月7日判決)は,新たな就業規則の作成であっても,既存の就業規則の変更であっても,労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは,原則として許されない,ことを原則としています。しかし,これらの判例は,当該規則条項が合理的なものである限り,労働者に不利益な就業規則の作成や変更でも有効だとしています。

2,定年年齢の引き下げ
前述のように,就業規則の変更が合理的であれば,有効なのですが,就業規則の不利益変更が有効になるほどの合理性とは,私立大学の教員の定年を,就業規則の変更によって,72歳(一部の教員については70歳)から65歳に引き下げた東京裁平成17年3月30日判決・芝浦工業大学定年引下げ事件では,
① 年齢アンバランスの解消や人件費の負担削減など定年引下げの必要性が高い。
② 変更後の就業規則の内容も相当性を有している。
③ 定年の引き下げに伴って,退職金加給や新優遇制度等の代償措置をとっている。
④ 組合との間では合意には至らなかったものの適切な手続を踏んでいる。
との理由で,就業規則の変更は,高度の必要性に基づいた合理的な内容のもので有効である,と判示しております。

3,退職金の引き下げ
東京高裁平成20年2月13日判決(日刊工業新聞社事件)は,企業が倒産の危機に瀕し,企業再建のため,退職金を50%カットする就業規則の変更をした事案ですが,この企業は倒産により清算的処理をするかメインバンクが提言する被用者の退職金を50%カットとする内容を含む再建の方法を採るかの二者択一が迫られていたこと,倒産した場合は,退職金は,総資産から別除権及び相殺予定額,清算費用,公租公課を除いた後の配当では25%程度しか見込めないこと,それに比べれば退職金の50%カットは不利益とは言えないことを理由に,就業規則の変更を有効であると判示しています。

4,給与の引き下げ
一審の函館地裁平成18年3月2日,その控訴審の札幌高裁平成19年3月23日判決(社会福祉法人八雲会事件)とも,給与を減額する就業規則の変更を有効と認めた事案です。

5,就業規則の周知措置の必要性
就業規則の変更は,従業員へ周知されていないと無効ですので,注意が必要です。東京高裁平成19年10月30日判決は,就業規則の変更については,労基署への届けがなくても実質的に周知されていれば変更は有効と解する余地があるとしながらも,会社の休憩室の壁に掛けられていた就業規則には,退職手当の決定,計算について定められていないので,実質的周知がされていたとはいえないとして,この場合の就業規則の変更は無効としています。

6,遡及的適用は無効
就業規則の不利益変更が有効になる場合でも,変更後の就業規則を変更前の一定時期まで遡らせて適用する,いわゆる遡及的適用の部分は無効とされています(例・3の判例)。