シックハウス症候群の化学物質過敏症はどう違うの?

1,シックハウス症候群とは,室内の空気の汚染によって発症する体調の変調ということができます。 シックハウス症候群は,屋外へ出ることによって体調が良くなるものですが,この点が次に述べる化学物質過敏症と違うところです。 体調の変調の内容は,WHO(世界保健機構)の診断基準では,
①目・鼻・のどの刺激症状,粘膜の乾燥感
②皮膚の紅斑,かゆみ
③疲れやすさ,頭痛,精神的疲労,集中力の低下,めまい,吐き気
④嗅覚・味覚の異常
⑤過敏性の反応(分泌亢進など)
があげられています。

2,化学物質過敏症とは「過去にかなり大量の有害化学物質の曝露を経験して,急性中毒症状が現れた後に,あるいは,有害化学物質を微量ではあるが,長期間に渡って継続的に曝露を受けてきた場合,次の機会に非常に微量の同じ仲間の有害化学物質の再曝露を受けた場合に認められる,多彩な症状を呈する疾患」と定義されています。これは以前に,大量に有害化学物質に触れたことがある人や,少量だが長期間にわたって化学物質を吸っていた人,例えば,除草剤,殺虫剤などに長期間触れてきた人に起こる症状です。

3,有害化学物質に適応できる人の能力には限界があり,化学物質総負荷量が個人の許容量の限界を超えると,一気にからだ全体に自律神経症状,中枢神経症状を中心とした不定愁訴が出現してくるのですが,有害化学物質の曝露の経験が少ない人の場合は,何の症状も出ないが,このような経験 のある人が,例えば新築建物などに入居したとき,そこの空気中のホルムアルデヒド,トルエン有機リン剤などの室内空気汚染物質と接触した後発症するということがあります。これは,その人の化学物質総負荷量が許容量の限界を超えたからと評価されます。  このことから,ホルムアルデヒドのよ うな室内空気汚染物質が,基準値を大幅に超えていて発症する場合をシックハウス症候群,その基準値の2分の1とか5分の1,10分の1などの微量負荷でも症状が出る場合は,化学物質過敏症と言われているようです。

4,なお,化学物質過敏症の原因として,北里研究所病院・北里大学医学部により,次のような調査結果が公にされております。

5,シックハウス症候群や化学物質過敏症になる原因については,
①室内において有害な化学物質の発生量が増加したこと
②同一の品質で大量かつ調達が容易な化学物質を利用した新建材の使用や化学物質を利用した生活用品,例えば,ヘアスプレーや香水,スプレー式殺虫剤等,あるいは木製家具,それに工費の 節減,工期の短縮,施工精度の向上のためや,熟練労働者の不足の解決のための接着剤の使用などが増えたこと
③住宅の高気密,高断熱化によるエネルギー節減のため換気が十分行われないこと
④化学物質に反応しやすい人が増えたこと
があげられます。

6,室内空気の化学物質濃度の基準について,平成13年7月現在で厚生労働省が定めている揮発性有機化合物のガイドラインは,次の表の通りです。
個別の揮発性有機化合物(VOC)の指針値
揮発性有機化合物 毒性指標 室内濃度指針値※
ホルムアルデヒド ヒト曝露における鼻咽頭粘膜への刺激 100μg/m3
(0.08ppm)
トルエン ヒト曝露における神経行動機能及び生殖発生への影響 260μg/m3
(0.07ppm)
キシレン 妊娠ラット曝露における出生児の中性神経系発達への影響 870μg/m3
(0.20ppm)
パラジクロロベンゼン ビーグル犬曝露における肝臓及び腎臓等への影響 240μg/m3
(0.04ppm)
エチルベンゼン マウス及びラット曝露における肝臓及び腎臓への影響 3800μg/m3
(0.88ppm)
スチレン ラット曝露における脳や肝臓への影響 220μg/m3
(0.05ppm)
クロルピリホス 母ラット曝露における新生児の神経発達への影響及び新生児脳への形態学的影響 1μg/m3(0.07ppb)
ただし小児の場合は0.1μg/m3(0.007ppb)
フタル酸ジ-n-ブチル 母ラット曝露における新生児の生殖器の構造異常等の影響 220μg/m3
(0.02ppm)
テトラデカン ラットにおける経口曝露知見による肝臓への影響 330μg/m3
(0.04ppm)
フタル酸ジ-2-エチルヘキシル 雄ラットの経口投与による精巣への影響 120μg/m3
(7.6ppb)
ダイアジノン ラットの吸入曝露毒性に関する知見による血漿及び赤血球コリンエステラーゼ活性への影響 0.29μg/m3
(0.02ppb)
ノナナール ラットへの経口曝露による毒性学的影響 41μg/m3
(7.0ppb)※ 両単位の換算は,25℃の場合による。

一般住宅や一般の執務環境の空気濃度は,この厚生省のガイドライン値以下になっている必要があるとされています。
なお,化学物質の中で一番有名なのがホルムアルデヒドですが,ホルムアルデヒドは,刺激臭のある無色の気体で,水によく溶けます。37%の水溶液は,ホルマリンと呼ばれ,殺菌・防腐剤として使われます。ホルムアルデヒドの刺激臭の閾値(においを感じる濃度)は,500~1000ppbですが,においの閾値以下でも慢性曝露により化学物質過敏症を引き起こす可能性が指摘されています。室内濃度の指針値は,30分平均値で80ppbです。接着剤としてよく使われております。

7,室内の空気汚染物質の濃度を下げる方法としては,
① 汚染発生源を除去・隔離する方法
② 発生源を無害化あるいは発生を抑制する方法,一方法として,「ベークアウト」と呼ばれる方法がありますが,これは建材などからの化学物質の発生量は室温(正確には建材の温度)が高いと多くなるという性質を利用して,入居する前に意図的に室内の温度を上げ,いわば「晒した」状態にして,できるだけ多くの化学物質を発生させれば,入居時における発生量を低減できるという考え方です。

③ 空気清浄機などによる汚染物質除去法
空気清浄機は煙草の煙や埃のような粒子状物質の除去には効果がありますが,ホルムアルデヒド,トルエン,キシレンといったようなが素性の汚染物質の除去には効果がみられないことが多いようです。
④ 換気による方法
最も効果的な方法とされております